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多変数関数

多変数関数のための片側極限の拡張

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変数が動く経路を限定した場合の多変数関数の極限

多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)と点\(a\in \mathbb{R} \)が与えられたとき、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\)が有限な実数へ収束するか検討するためには、そもそも\(f\)は点\(a\)の周辺にある任意の点において定義されている必要があります。なぜなら、\(f\)が\(x\rightarrow a\)のときに有限な実数\(b\)へ収束することとは、変数\(x\)がどのような経路で点\(a\)へ限りなく近づく場合においても\(f\left( x\right) \)の値が\(b\)に限りなく近づくことを意味するのであり、仮に\(f\)が点\(a\)の周辺の任意の点において定義されていない場合、「変数\(x\)があらゆる経路で点\(a\)へ限りなく近づく」という状況を作ることさえできないからです。

例(開集合上に定義された関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)の定義域\(X\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の開集合である場合、定義域上の点\(a\in X\)を任意に選ぶと、\(f\)は点\(a\)の周辺の任意の点において定義されていることが保証されるため、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\)が有限な実数へ収束するか検討できます。例えば、\(\mathbb{R} ^{n}\)は開集合であるため、関数\(f\)の定義域が\(\mathbb{R} ^{n}\)である場合はこのようなケースに該当します。
例(境界点を含む集合上に定義された関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)の定義域\(X\)が境界点を含む場合、境界点\(a\in X^{f}\)を任意に選ぶと、境界点の定義より、点\(a\)を中心とする任意の近傍は\(X\)の部分集合になりません。したがって、\(f\)は点\(a\)の周辺にある任意の点において定義されているとは言えず、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\)が有限な実数へ収束するか検討できません。

1変数関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)の場合、このような状況に対して片側極限で対処しました。具体的には、関数\(f\)が点\(a\in \mathbb{R} \)の周辺の任意の点において定義されていない場合でも、\(f\)が点\(a\)より大きい周辺の任意の点において定義されているのであれば、変数\(x\)が点\(a\)より大きい値をとりながら\(a\)に限りなく近づく場合の\(f\)の極限概念、すなわち右側極限を考えることはできます。逆に、\(f\)が点\(a\)より小さい周辺の任意の点において定義されているのであれば、変数\(x\)が点\(a\)より小さい値をとりながら\(a\)に限りなく近づく場合の\(f\)の極限概念、すなわち左側極限を考えることはできます。

多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)についても同様に考えます。つまり、多変数関数\(f\)が点\(a\in \mathbb{R} \)の周辺の任意の点において定義されていない場合でも、変数\(x\)を点\(a\)に限りなく近づけられる経路が存在する状況は起こり得ます。そのような場合、その中のどの経路を選んだ場合においても、変数\(x\)を点\(a\)に限りなく近づけた場合に\(f\)が1つの有限な実数\(b\)へ近づく場合には、そのような\(b\)を\(x\rightarrow a\)の場合の\(f\)の極限とみなすということです。

例(境界点を含む集合上に定義された関数)
2変数関数\(f\)の定義域が、\begin{equation*}\mathbb{R} _{+}^{2}=\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\geq 0\wedge y\geq 0\right\} \end{equation*}である場合、\(f\)は定義域の境界点の1つである点\(\left( 0,0\right) \)の周辺の任意の点においては定義されていないため、通常の意味における\(\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) \)の場合の\(f\left( x,y\right) \)極限をとることはできません。一方、\(f\)は\(x\geq 0\)かつ\(y\geq 0\)を満たす任意の点\(\left( x,y\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)において定義されているため、\(x\geq 0\)かつ\(y\geq 0\)かつ\(\left( x,y\right) \not=\left( 0,0\right) \)を満たす形で\(\left( x,y\right) \)を\(\left(0,0\right) \)へ限りなく近づける経路は無数に存在します。そこで、その中のどの経路を選んだ場合においても、\(\left( x,y\right) \)を\(\left( 0,0\right) \)に限りなく近づけた場合に\(f\left( x,y\right) \)の値が1つの有限な実数\(b\)へ限りなく近づく場合には、そのような\(b\)を\(\left( x,y\right)\rightarrow \left( 0,0\right) \)の場合の\(f\)の極限とみなします。では、定義域の別の境界点\(\left( 1,0\right) \)についてはどうでしょうか。この場合、\(y\geq 0\)かつ\(\left(x,y\right) \not=\left( 1,0\right) \)を満たす形で\(\left( x,y\right) \)を\(\left( 1,0\right) \)へ限りなく近づける経路は無数に存在します。そこで、その中のどの経路を選んだ場合においても、\(\left( x,y\right) \)を\(\left( 1,0\right) \)に限りなく近づけた場合に\(f\left( x,y\right) \)の値が同一の実数\(b\)へ限りなく近づく場合には、そのような\(b\)を\(\left(x,y\right) \rightarrow \left( 1,0\right) \)の場合の\(f\)の極限とみなします。
例(孤立点の扱い)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)と点\(a\in X\)が与えられたとき、\(a\)が\(X\)の孤立点である場合には、\begin{equation*}\exists \varepsilon >0:N_{\varepsilon }\left( a\right) \cap X=\left\{
a\right\}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、点\(a\)を中心とする近傍の中に\(a\)以外の\(X\)の点を要素をして持たないものが存在するということです。つまり、\(f\)は点\(a\)の周辺の任意に点において定義されていないため、\(x\)を\(a\)に限りなく近づけられるような経路が1つも存在しません。以上を踏まえると、定義域\(X\)の孤立点\(a\)に関しては、通常の意味における\(f\)の\(x\rightarrow a\)のときの極限を考えることができないだけでなく、片側極限を拡張する形で先のように定義した\(x\rightarrow a\)の場合の\(f\)の極限を考えることもできません。

 

具体例

以下が境界点における多変数関数の極限の具体例です。

例(境界点における極限)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{ll}
0 & \left( if\ xy<0\right) \\
1 & \left( if\ xy\geq 0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。点\(\left( 0,0\right) \)は定義域\(\mathbb{R} ^{2}\)の内点であるため、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)の周辺の任意の点において定義されています。その一方で、\(\left( x,y\right) \rightarrow\left( 0,0\right) \)のときに\(f\left( x,y\right) \)は有限な実数へ収束しないことを証明します。具体的には、以下の2つの点列\begin{eqnarray*}&&\left\{ \frac{1}{v},\frac{1}{v}\right\} \\
&&\left\{ \frac{1}{v},-\frac{1}{v}\right\}
\end{eqnarray*}に注目します。これらの点列の任意の項は\(\left( 0,0\right) \)とは異なるとともに、極限に関しては、\begin{eqnarray*}\lim_{v\rightarrow \infty }\left( \frac{1}{v},\frac{1}{v}\right) &=&\left(
0,0\right) \\
\lim_{v\rightarrow \infty }\left( \frac{1}{v},-\frac{1}{v}\right) &=&\left(
0,0\right)
\end{eqnarray*}が成り立ちます。その一方で、数列\(\left\{ f\left( \frac{1}{v},\frac{1}{v}\right) \right\} \)の極限に関しては、\begin{eqnarray*}\lim_{v\rightarrow \infty }f\left( \frac{1}{v},\frac{1}{v}\right)
&=&\lim_{v\rightarrow \infty }1\quad \because \frac{1}{v}\cdot \frac{1}{v}>0\text{および}f\text{の定義} \\
&=&1
\end{eqnarray*}である一方で、数列\(\left\{ f\left( \frac{1}{v},-\frac{1}{v}\right) \right\} \)の極限に関しては、\begin{eqnarray*}\lim_{v\rightarrow \infty }f\left( \frac{1}{v},-\frac{1}{v}\right)
&=&\lim_{v\rightarrow \infty }0\quad \because \frac{1}{v}\left( -\frac{1}{v}\right) <0\text{および}f\text{の定義} \\
&=&0
\end{eqnarray*}となります。\(\left\{ f\left( \frac{1}{v},\frac{1}{v}\right) \right\} \)と\(\left\{ f\left( \frac{1}{v},-\frac{1}{v}\right) \right\} \)は異なる極限へ収束することが示されたため、\(\left( x,y\right) \rightarrow\left( 0,0\right) \)のときに\(f\)は有限な実数へ収束しないことが明らかになりました。では、この関数\(f\)の定義域を\(\mathbb{R} ^{2}\)から\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)へ縮小した場合にはどうなるでしょうか。先ほどと異なり、この場合には点\(\left(0,0\right) \)は定義域\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)の境界点であり、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)の周辺の任意の点において定義されているとは言えません。この場合、\(f\)の\(\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) \)の場合の極限とは、変数\(\left( x,y\right) \)が\(x\geq 0\)かつ\(y\geq 0\)かつ\(\left( x,y\right) \not=\left( 0,0\right) \)を満たしながら\(\left( 0,0\right) \)へ限りなく近づく場合の\(f\)の極限に相当します。以上を踏まえた上で、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :x_{v}\geq 0 \\
&&\left( b\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :y_{v}\geq 0 \\
&&\left( c\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :\left( x_{v},y_{v}\right) \not=\left( 0,0\right) \\
&&\left( d\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\left( x_{v},y_{v}\right)
=\left( 0,0\right)
\end{eqnarray*}を満たす点列\(\left\{ \left(x_{v},y_{v}\right) \right\} \)を任意に選びます。このとき、数列\(\left\{ f\left( x_{v},y_{v}\right) \right\} \)の極限は、\begin{equation*}\lim_{v\rightarrow \infty }f\left( x_{v},y_{v}\right) =\lim_{v\rightarrow
\infty }1=1
\end{equation*}となるため、\(\left( x,y\right)\rightarrow \left( 0,0\right) \)のときに\(f\)は有限な実数\(1\)へ収束することが明らかになりました。

 

演習問題

問題(境界点における極限)
関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =x
\end{equation*}を定めるものとします。点\(\left( 1,0\right) \)は定義域\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)の境界点ですが、\(f\)は\(\left( x,y\right) \rightarrow \left( 1,0\right) \)のときに有限な値へ収束するでしょうか。収束する場合には極限を求めてください。
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問題(境界点における極限)
関数\(f:\mathbb{R} _{+}\times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} _{+}\times \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{ll}
0 & \left( if\ xy<0\right) \\
1 & \left( if\ xy\geq 0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。点\(\left( 0,0\right) \)は定義域\(\mathbb{R} _{+}\times \mathbb{R} \)の境界点ですが、\(f\)は\(\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) \)のときに有限な値へ収束するでしょうか。収束する場合には極限を求めてください。
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