部分事象
標本空間\(\Omega \)が与えられたとき、2つの事象\(A,B\subset \Omega \)を任意に選びます。このとき、\begin{equation*}A\subset B
\end{equation*}が成り立つ場合、すなわち\(A\)が\(B\)の部分集合である場合には\(A\)を\(B \)の部分事象(sub event)と呼びます。
部分集合の定義より、\(A\)が\(B\)の部分事象である場合には、\begin{equation}\forall \omega \in \Omega :\left( \omega \in A\Rightarrow \omega \in
B\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちますが、これは何を意味するのでしょうか。問題としている試行のもとで事象\(A\)が起きた場合、それは\(A\)に属する何らかの標本点\(\omega \)が実現したことを意味します。つまり\(\omega \in A\)です。すると\(\left( 1\right) \)より\(\omega \in B\)が成り立ちますが、これは事象\(B\)が起きていることを意味します。つまり、\(A\)が\(B\)の部分事象であることとは、問題としている試行のもとで事象\(A\)が起こる場合には事象\(B\)も必ず同時に起こることを意味します。
\Omega =\{1,2,3,4,5,6\}
\end{equation*}です。例えば、「\(1\)の目が出る」という事象は、\begin{equation*}\left\{ 1\right\}
\end{equation*}として表現され、「奇数の目が出る」という事象は、\begin{equation*}
\left\{ 1,3,5\right\}
\end{equation*}として表現されますが、両者の間には、\begin{equation*}
\left\{ 1\right\} \subset \left\{ 1,3,5\right\}
\end{equation*}が成り立つため、「\(1\)の目が出る」ことは「奇数の目が出る」ことの部分事象です。
\Omega =\left\{ \left( i,j\right) \ |\ i,j\in \left\{ 1,2,3,4,5,6\right\}
\right\}
\end{equation*}です。ただし、標本点\(\left( i,j\right) \)は「1回目に\(i\)が出て2回目に\(j\)が出る」という結果に相当します。例えば、「2回とも偶数の目が出る」という事象を\(A\)で表し、「2回の目の和が偶数である」という事象を\(B\)で表します。このとき、任意の標本点\(\left( i,j\right) \in \Omega \)に対して、\begin{eqnarray*}\left( i,j\right) \in A &\Leftrightarrow &i\text{と}j\text{はともに偶数}\quad \because A\text{の定義} \\
&\Rightarrow &i+j\text{は偶数} \\
&\Leftrightarrow &\left( i,j\right) \in B\quad \because B\text{の定義}
\end{eqnarray*}すなわち\(A\subset B\)が成り立つため、「2回とも偶数の目が出る」ことは「2回の目の和が偶数である」ことの部分事象です。
部分事象ではないことの意味
繰り返しになりますが、事象\(A,B\subset \Omega \)について\(A\)が\(B\)の部分事象であること、すなわち\(A\subset B\)が成り立つことは、\begin{equation*}\forall \omega \in \Omega :\left( \omega \in A\Rightarrow \omega \in B\right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。逆に\(A\subset B\)が成り立たないことは、上の命題の否定である、\begin{equation*}\exists \omega \in \Omega :\left( \omega \in A\wedge \omega \not\in B\right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。つまり、\(A\)が\(B\)の部分事象でないこととは、\(A\)の要素だが\(B\)の要素ではない標本点\(\omega \)が存在すること、すなわち、問題としている試行のもとで事象\(A\)が起こると同時に事象\(B\)が起こらないような状況が生じ得ることを意味します。
\Omega =\{1,2,3,4,5,6\}
\end{equation*}です。例えば、「奇数の目が出る」という事象は、\begin{equation*}
\left\{ 1,3,5\right\}
\end{equation*}として表現され、「\(1\)の目が出る」という事象は、\begin{equation*}\left\{ 1\right\}
\end{equation*}として表現されますが、両者の間には、\begin{equation*}
\left\{ 1,3,5\right\} \subset \left\{ 1\right\}
\end{equation*}という関係が成り立たないため、「奇数の目が出る」ことは「\(1\)の目が出る」ことの部分事象ではありません。言い換えると、「奇数の目が出る」場合には必ずしも「\(1\)の目が出て」いるとは限りません。実際、\(3\)や\(5\)の目が出る場合が反例になっています。
\Omega =\left\{ \left( i,j\right) \ |\ i,j\in \left\{ 1,2,3,4,5,6\right\}
\right\}
\end{equation*}です。ただし、標本点\(\left( i,j\right) \)は「1回目に\(i\)が出て2回目に\(j\)が出る」という結果に相当します。例えば、「2回の目の和が偶数である」という事象を\(A\)で表し、「2回とも偶数の目が出る」という事象を\(B\)で表すとき、両者の間に、\begin{equation*}A\subset B
\end{equation*}という関係が成り立たないため、「2回の目の和が偶数である」ことは「2回とも偶数の目が出る」ことの部分事象ではありません。言い換えると、「2回の目の和が偶数である」場合には必ずしも「2回とも偶数の目が出て」いるとは限りません。実際、\(i\)と\(j\)がともに奇数であるような場合が反例になっています。
演習問題
B &:&\text{出た目の和が偶数}
\\
C &:&\text{同じ目が出る}
\end{eqnarray*}について考えます。この中の2つに注目した場合、一方が他方の部分事象になるものは存在するでしょうか。議論してください。
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