1生産物モデルにおける生産集合のフリーランチ不可能性

生産集合におけるフリーランチ不可能性について、その定義や経済学的な意味を解説するとともに、生産関数fの性質 f(0)=0 との必要十分関係や操業停止可能性との関係を証明します。具体例や演習問題を通じて、フリーランチ不可能性が生産技術に課される重要な仮定であることを体系的に理解します。

生産集合のフリーランチ不可能性

前節では、生産集合が操業停止可能性を満たすという仮定について学びました。操業停止可能性とは、生産者が生産活動を行わず、生産要素の投入量および生産物の産出量がともにゼロである生産計画を選択できることを意味します。

しかし、操業停止可能性だけでは、生産者が何も投入することなく正の産出量を得られないことまでは保証されません。例えば、生産要素を一切投入しなくても正の生産物を得られる生産技術も、数学的には操業停止可能性を満たし得ます。しかし、そのような生産技術は現実には考えにくく、生産者理論においても通常は排除されます。

そこで、生産者理論では、生産要素をまったく投入しない限り、正の生産物を得ることはできないという性質を仮定します。この仮定をフリーランチ不可能性(no free lunch)と呼びます。

フリーランチ不可能性は、「何も犠牲にすることなく何かを得ることはできない」という経済学の基本的な考え方を、生産技術に関して表現したものです。以下では、フリーランチ不可能性の定義を与え、その数学的・経済学的な意味について詳しく考えていきます。

\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおける生産ベクトルは投入ベクトルと産出量の組\begin{equation*}\left( \boldsymbol{x},y\right) =\left( x_{1},\cdots ,x_{N},y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{N+1}
\end{equation*}として表現されます。生産者が技術的に選択可能な生産ベクトルからなる集合は生産集合\begin{equation*}
Y\subset \mathbb{R} _{+}^{N+1}
\end{equation*}として表現されます。その上で、\(Y\)が以下の条件\begin{equation*}\forall \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y:\left( \boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\Rightarrow y=0\right)
\end{equation*}を満たすならば、すなわち、技術的に選択可能な生産ベクトルを構成する投入ベクトルがゼロベクトルである場合、産出量もゼロであることが保証される場合には、\(Y\)はフリーランチ不可能性(no free lunch)や桃源郷の不可能性(impossibility of the Land of Cockaigne’s)を満たすと言います。

フリーランチ不可能性の対偶をとると、\begin{equation*}
\forall \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y:\left( y\not=0\Rightarrow
\boldsymbol{x}\not=\boldsymbol{0}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y:\left( y>0\Rightarrow
\boldsymbol{x}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\backslash \left\{ \boldsymbol{0}\right\} \right)
\end{equation*}を得ます。つまり、技術的に選択可能な生産ベクトルにおいて産出量が正である場合、何らかの生産要素を投入しているということです。

逆に、生産集合\(Y\)がフリーランチ不可能性を満たさないこととは、\begin{equation*}\exists \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y:\left( \boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\wedge y\not=0\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\exists \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y:\left( \boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\wedge y>0\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、投入を一切行わずに正の産出を行うことが技術的に選択可能であるということです。フリーランチ不可能性はこのような可能性を排除します。

例(フリーランチ不可能性)
1生産要素1生産物モデルにおける生産集合\(Y\subset \mathbb{R} _{+}^{2}\)が下図のグレーの領域として描かれています。

図:フリーランチ不可能性
図:フリーランチ不可能性

\(x=0\)を満たす生産ベクトル\(\left( x,y\right) \in Y\)について\(y=0\)が成立しているため\(Y\)はフリーランチ不可能性を満たしています。

例(フリーランチ不可能性)
1生産要素1生産物モデルにおける生産集合\(Y\subset \mathbb{R} _{+}^{2}\)が下図のグレーの領域として描かれています。

図:フリーランチ不可能性
図:フリーランチ不可能性

\(y>0\)を満たす生産ベクトル\(\left( 0,y\right) \)が生産集合\(Y\)の要素であるため、この\(Y\)はフリーランチ不可能性を満たしません。

 

生産関数の性質としてのフリーランチ不可能性

生産集合\(Y\subset \mathbb{R} _{+}^{N+1}\)が与えられたとき、生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在する場合には、それぞれの投入ベクトル\(\boldsymbol{x}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して、\begin{eqnarray*}f\left( \boldsymbol{x}\right) &=&\max P\left( \boldsymbol{x}\right) \\
&=&\max \left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y\right\}
\end{eqnarray*}を定めます。ただし、\begin{equation*}
P\left( \boldsymbol{x}\right) =\left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y\right\}
\end{equation*}は\(\boldsymbol{x}\)の可能産出量集合です。

生産関数\(f\)が存在する場合、投入ベクトル\(\boldsymbol{0}\)のもとで実現可能な産出量の最大値がゼロであることと、すなわち、\begin{equation*}f\left( \boldsymbol{0}\right) =0
\end{equation*}が成り立つことと、フリーランチ不可能性が成り立つことは必要十分です。

命題(生産関数の性質としてのフリーランチ不可能性)
\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおいて生産集合\(Y\subset \mathbb{R} _{+}^{N+1}\)が与えられているものとする。生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在する場合、\begin{equation*}f\left( \boldsymbol{0}\right) =0
\end{equation*}が成り立つことと、\(Y\)がフリーランチ不可能性を満たすことは必要十分である。
証明

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

生産関数\(f\)が存在する場合、投入ベクトル\(\boldsymbol{0}\)のもとで実現可能な産出量の最大値がゼロを超えることと、すなわち、\begin{equation*}f\left( \boldsymbol{0}\right) >0
\end{equation*}が成り立つことと、フリーランチ不可能性が成り立たないことは必要十分です。

命題(生産関数の性質としてのフリーランチ可能性)
\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおいて生産集合\(Y\subset \mathbb{R} _{+}^{N+1}\)が与えられているものとする。生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在する場合、\begin{equation*}f\left( \boldsymbol{0}\right) >0
\end{equation*}が成り立つことと、\(Y\)がフリーランチ不可能性を満たさないことは必要十分である。
証明

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

例(フリーランチ不可能性)
1生産要素1生産物モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ y\leq x\right\}
\end{equation*}であるものとします。これは下図のグレーの領域として図示されています(境界を含む)。

図:フリーランチ不可能性
図:フリーランチ不可能性

先に示したように\(Y\)はフリーランチ不可能性を満たします。実際、生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在して、\begin{eqnarray*}f\left( 0\right) &=&\max \left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \left( 0,y\right) \in Y\right\} \\
&=&\max \left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ y\leq 0\right\} \\
&=&\max \left[ 0,0\right] \\
&=&0
\end{eqnarray*}を満たすため、先の命題より\(Y\)はフリーランチ不可能性を満たします。

 

フリーランチ不可能性と操業停止可能性の関係

生産関数\(f\)が存在する場合には以下の関係\begin{equation*}f\left( \boldsymbol{0}\right) =0\Leftrightarrow \text{フリーランチ不可能性}
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。さらに、先に示したように、\begin{equation*}
f\left( \boldsymbol{0}\right) =0\Rightarrow \text{操業停止可能性}
\end{equation*}が成り立つため、\begin{equation*}
\text{フリーランチ不可能性}\Rightarrow \text{操業停止可能性}
\end{equation*}を得ます。つまり、操業停止可能性はフリーランチ不可能性から導出可能です。

ただし、以上の議論は生産関数\(f\)が存在することを前提としています。生産関数\(f\)の存在を前提とせず、生産集合\(Y\)だけを議論の対象とする場合、フリーランチ不可能性から操業停止可能性を導けるとは限りません。以下の例より明らかです。

例(フリーランチ不可能性と操業停止可能性の関係)
1生産要素1生産物モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( 1,1\right) \right\}
\end{equation*}であるものとします。フリーランチ不可能性\begin{equation*}
\forall \left( x,y\right) \in Y:\left( x=0\Rightarrow y=0\right)
\end{equation*}は成り立つ(空虚真)である一方で、\begin{equation*}
\left( 0,0\right) \not\in Y
\end{equation*}であるため、操業停止可能性は成り立ちません。

 

演習問題

問題(フリーランチ不可能性と操業停止可能性の関係)
\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおいて生産集合\(Y\subset \mathbb{R} _{+}^{N+1}\)が与えられているものとする。生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在するという条件のもと、フリーランチ不可能性から操業停止可能性を直接導出してください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(フリーランチ不可能性)
2生産要素1生産物モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( x_{1},x_{2},y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{3}\ |\ y\leq x_{1}^{\frac{1}{2}}x_{2}^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。\(Y\)がフリーランチ不可能性を満たすことを示してください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(フリーランチ不可能性)
2生産要素1生産物モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( x_{1},x_{2},y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{3}\ |\ y\leq \min \left\{ x_{1},\frac{x_{2}}{2}\right\} \right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。\(Y\)がフリーランチ不可能性を満たすことを示してください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

この教材についての議論

この教材について質問したり、他の学習者と議論したりするには会員登録とログインが必要です。

  • 会員はコメントを投稿できます
  • 他のユーザーへの返信も可能です
  • 過去の議論を検索・閲覧できます
  • 投稿内容は後から編集できます

WIISでは、年齢・性別・学歴・職業・社会的立場などにかかわらず、すべてのユーザーが「学ぶ人」として対等であると考えています。

ここは知識を競う場所ではなく、互いの考えを尊重しながら理解を深めていくための場です。質問や意見の表明はもちろん、分からないことを率直に尋ねることも歓迎します。

建設的で安心できる学習環境を維持するため、投稿の前にガイドラインをご確認ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合には以下のフォームからご連絡をお願い致します。

AIに質問
wiis専属チューター ×
本日の利用回数を確認中...
こんにちは!この教材の専属チューターです。数式の証明や概念の解説など、何でも聞いてください。

💡 教材のテキストや数式をドラッグ選択すると、自動的に下の入力欄に数式付きで引用されます!

このページの目次

MEMBERSHIP

学びを、次の深さへ。

WIISの有料会員に登録すると、
会員限定コンテンツへのアクセス、
PDF教材のダウンロード、
AI Tutorの利用、フォーラムへの参加など、
さまざまな会員特典をご利用いただけます。

会員限定コンテンツ

学習をさらに深めるための限定コンテンツを提供しています。

PDF教材

教材をPDFとしてダウンロードして利用できます。

AI Tutor

理解を深めるための学習支援AIを利用できます。

コミュニティ機能

学習者同士で交流し、議論や研究に参加できます。

最近閲覧したページ