生産集合の凸性
生産者の技術が生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)として表現されているものとします。このとき、\(Y\)が凸集合であるならば、すなわち、\begin{equation*}\forall y,y^{\prime }\in Y,\ \forall \alpha \in \left[ 0,1\right] :\alpha
y+\left( 1-\alpha \right) y^{\prime }\in Y
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(Y\)は凸性(convexity)を満たすと言います。これは、技術的に選択可能な2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\)を任意に選んだとき、それらを任意の割合\(\alpha \)で組み合わせて得られる生産ベクトル\(\alpha y+\left( 1-\alpha\right) y^{\prime }\)もまた技術的に選択可能であることを意味します。
グレーの領域上にある2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\in Y\)を任意に選んだ上で、それらを端点とする線分を描くと、その線分全体もまたグレーの領域に属します。したがって、この生産集合\(Y\)は凸性を満たします。
図中の2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\in Y\)に注目すると、これらを端点とする線分上には\(Y\)に属さない点が存在するため、この生産集合\(Y\)は凸性を満たしません。
図中の2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\in Y\)に注目すると、これらを端点とする線分上には\(Y\)に属さない点が存在するため、この生産集合\(Y\)は凸性を満たしません。
y^{\prime } &=&\left( 10,-20,-2\right)
\end{eqnarray*}がともに\(Y\)の要素であるものとします。つまり、これらは技術的に選択可能です。\(y\)と\(y^{\prime }\)のいずれにおいても\(10\)単位の商品\(1\)が生産されていますが、\(y\)では\(2\)単位の商品\(2\)と\(20\)単位の商品\(3\)を投入している一方で、\(y^{\prime }\)では\(20\)単位の商品\(2\)と\(2\)単位の商品\(3\)を投入しています。生産集合\(Y\)の凸性より、例えば、以下の生産ベクトル\begin{eqnarray*}\frac{1}{2}y+\frac{1}{2}y^{\prime } &=&\frac{1}{2}\left( 10,-2,-20\right) +\frac{1}{2}\left( 10,-20,-2\right) \\
&=&\left( 5,-1,-10\right) +\left( 5,-10,-1\right) \\
&=&\left( 10,-11,-11\right)
\end{eqnarray*}もまた\(Y\)の要素であり、したがって技術的に選択可能です。この新たな生産ベクトルでは\(10\)単位の商品\(1\)が生産するために商品\(2\)と商品\(3\)を\(11\)単位ずつ投入しており、\(y\)や\(y^{\prime }\)と比べて2つの生産要素を適度な割合で投入しています。つまり、凸性を満たす技術のもとでは、生産要素の投入バランスの偏りを修正しても生産物の産出量が減少しないことが保証されます。
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\alpha y\in Y
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(Y\)上の点\(y\)を任意に選んだとき、点\(y\)と原点\(0\)を結ぶ線分上にある任意の点が\(Y\)上にあるということです。言い換えると、技術的に選択可能な生産ベクトル\(y\)を任意に選んだとき、凸性と操業停止可能性のもとでは、\(y\)における生産量と投入量を同じ割合で縮小して得られる任意の生産ベクトルもまた技術的に選択可能であるということです。
生産集合の狭義凸性
生産者の技術が生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)として表現されているものとします。このとき、\(Y\)が狭義凸集合であるならば、すなわち、\begin{equation*}\forall y\in Y,\ \forall y^{\prime }\in Y\backslash \left\{ y\right\}
:\forall \alpha \in \left( 0,1\right) :\alpha y+\left( 1-\alpha \right)
y^{\prime }\in Y^{i}
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(Y\)は狭義凸性(strictconvexity)を満たすと言います。ただし、\(Y^{i}\)は\(Y\)の内部です。これは、技術的に選択可能な2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\)を任意に選んだとき、それらを任意の割合で組み合わせて得られる生産ベクトル\(\alpha y+\left( 1-\alpha \right) y^{\prime }\)もまた技術的に選択可能であるとともに、それが生産集合の内点であることが保証されることを意味します。
グレーの領域上にある2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\in Y\)を任意に選んだ上で、それらを端点とする線分を描くと、端点を除く線分全体もまたグレーの領域の内部に属します。したがって、この生産集合\(Y\)は狭義凸性を満たします。
図中の2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\in Y\)に注目すると、これらを端点とする線分上の点は\(Y\)の境界点であり内点ではないため、この生産集合\(Y\)は狭義凸性を満たしません。
凸性と狭義凸性の関係
狭義凸集合は凸集合でもあるため、狭義凸性を満たす生産集合は凸性を満たします。
上の命題の逆は成立するとは限りません。凸集合は狭義凸集合であるとは限らないからです。以下の例より明らかです。
この生産集合\(Y\)は明らかに凸性を満たします。その一方で、図中の2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\in Y\)に注目すると、これらを端点とする線分上の点は\(Y\)の境界点であり内点ではないため、この生産集合\(Y\)は狭義凸性を満たしません。
準凸な変換関数
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)に加えて変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられているとき、\(F\)が準凸関数(quasi-convex function)であることとは、\begin{equation*}\forall y,y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{N},\ \forall \alpha \in \left[ 0,1\right] :F\left( \alpha y+\left(
1-\alpha \right) y^{\prime }\right) \leq \max \left\{ F\left( y\right)
,F\left( y^{\prime }\right) \right\}
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime}\)を任意に選んだとき、それらを任意の割合\(\alpha \)で混ぜて得られる生産ベクトルに対して\(F\)が定める値がいずれも、\(F\left( y\right) \)と\(F\left(y^{\prime }\right) \)の大きい方の値以下に留まるということです。
\end{equation*}を定めるものとします。生産ベクトル\(\left(y_{1},y_{2}\right) ,\left( y_{1}^{\prime },y_{2}^{\prime }\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)とスカラー\(\alpha \in \left[ 0,1\right] \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\max \left\{ F\left( y_{1},y_{2}\right) ,F\left( y_{1}^{\prime
},y_{2}^{\prime }\right) \right\} &=&\max \left\{ y_{2}+y_{1},y_{2}^{\prime
}+y_{1}^{\prime }\right\} \quad \because F\text{の定義} \\
&\geq &\alpha \left( y_{2}+y_{1}\right) +\left( 1-\alpha \right) \left(
y_{2}^{\prime }+y_{1}^{\prime }\right) \\
&=&\alpha y_{2}+\left( 1-\alpha \right) y_{2}^{\prime }+\alpha y_{1}+\left(
1-\alpha \right) y_{1}^{\prime } \\
&=&F\left( \alpha y_{2}+\left( 1-\alpha \right) y_{2}^{\prime },\alpha
y_{1}+\left( 1-\alpha \right) y_{1}^{\prime }\right) \quad \because F\text{の定義} \\
&=&F\left( \alpha \left( y_{1},y_{2}\right) +\left( 1-\alpha \right) \left(
y_{1}^{\prime },y_{2}^{\prime }\right) \right)
\end{eqnarray*}となるため、\(F\)が準凸関数であることが示されました。
偏微分を用いて準凸関数を表現することもできます。つまり、変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が\(C^{1}\)級の関数である場合、\begin{equation*}\forall y,y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{N}:\left[ F\left( y^{\prime }\right) \leq F\left( y\right) \Rightarrow
\left( y^{\prime }-y\right) \cdot \nabla F\left( y\right) \leq 0\right]
\end{equation*}が成り立つことは、\(F\)が準凸関数であるための必要十分条件です。
\end{equation*}を定めるものとします。\(F\)は多変数の多項式関数であるため\(C^{1}\)級です。そこで、\begin{equation*}F\left( y_{1}^{\prime },y_{2}^{\prime }\right) \leq F\left(
y_{1},y_{2}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation}
y_{2}^{\prime }+y_{1}^{\prime }\leq y_{2}+y_{1} \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす生産ベクトル\(\left( y_{1},y_{2}\right) ,\left( y_{1}^{\prime },y_{2}^{\prime}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選びます。このとき、\begin{eqnarray*}\left( y_{1}^{\prime }-y_{1},y_{2}^{\prime }-y_{2}\right) \cdot \nabla
F\left( y_{1},y_{2}\right) &=&\left( y_{1}^{\prime }-y_{1},y_{2}^{\prime
}-y_{2}\right) \cdot \left( 1,1\right) \quad \because F\text{の定義} \\
&=&\left( y_{1}^{\prime }-y_{1}\right) +\left( y_{2}^{\prime }-y_{2}\right)
\\
&=&\left( y_{2}^{\prime }+y_{1}^{\prime }\right) -\left( y_{2}+y_{1}\right)
\\
&\leq &0\quad \because \left( 1\right)
\end{eqnarray*}となるため、\(F\)が準凸関数であることが示されました。
変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が\(C^{2}\)級の関数である場合、\(F\)が準凸関数であるならば、\begin{equation*}\forall y\in \mathbb{R} ^{N},\ \forall k\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :\det \left( A_{k}\left(
y\right) \right) \leq 0
\end{equation*}が成り立ちます。逆に、\begin{equation*}
\forall y\in \mathbb{R} ^{N},\ \forall k\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :\det \left( A_{k}\left(
y\right) \right) <0
\end{equation*}が成り立つならば\(F\)は準凸関数です。ただし、\(A_{k}\left( y\right) \)は\(F\)の点\(y\)における縁付きヘッセ行列\begin{equation*}D_{F}\left( y\right) =\begin{pmatrix}
0 & F_{y_{1}}^{\prime }\left( y\right) & F_{y_{2}}^{\prime }\left( y\right)
& \cdots & F_{y_{N}}^{\prime }\left( y\right) \\
F_{y_{1}}^{\prime }\left( y\right) & F_{y_{1}y_{1}}^{\prime \prime }\left(
y\right) & F_{y_{1}y_{2}}^{\prime \prime }\left( y\right) & \cdots &
F_{y_{1}y_{N}}^{\prime \prime }\left( y\right) \\
F_{y_{2}}^{\prime }\left( y\right) & F_{y_{2}y_{1}}^{\prime \prime }\left(
y\right) & F_{y_{2}y_{2}}^{\prime \prime }\left( y\right) & \cdots &
F_{y_{2}y_{N}}^{\prime \prime }\left( y\right) \\
\vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
F_{y_{N}}^{\prime }\left( y\right) & F_{y_{N}y_{1}}^{\prime \prime }\left(
y\right) & F_{y_{N}y_{2}}^{\prime \prime }\left( y\right) & \cdots &
F_{y_{N}y_{N}}^{\prime \prime }\left( y\right)
\end{pmatrix}\end{equation*}の\(k\)次首座小行列式であり、具体的には、\begin{equation*}A_{k}\left( y\right) =\begin{pmatrix}
0 & F_{y_{1}}^{\prime }\left( y\right) & F_{y_{2}}^{\prime }\left( y\right)
& \cdots & F_{y_{k}}^{\prime }\left( y\right) \\
F_{y_{1}}^{\prime }\left( y\right) & F_{y_{1}y_{1}}^{\prime \prime }\left(
y\right) & F_{y_{1}y_{2}}^{\prime \prime }\left( y\right) & \cdots &
F_{y_{1}y_{k}}^{\prime \prime }\left( y\right) \\
F_{y_{2}}^{\prime }\left( y\right) & F_{y_{2}y_{1}}^{\prime \prime }\left(
y\right) & F_{y_{2}y_{2}}^{\prime \prime }\left( y\right) & \cdots &
F_{y_{2}y_{k}}^{\prime \prime }\left( y\right) \\
\vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
F_{y_{k}}^{\prime }\left( y\right) & F_{y_{k}y_{1}}^{\prime \prime }\left(
y\right) & F_{y_{k}y_{2}}^{\prime \prime }\left( y\right) & \cdots &
F_{y_{k}y_{k}}^{\prime \prime }\left( y\right)
\end{pmatrix}\end{equation*}です。
\end{equation*}を定めるものとします。\(F\)は多変数の多項式関数であるため\(C^{2}\)級です。点\(\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)における縁付きヘッセ行列は、\begin{equation*}D_{F}\left( y_{1},y_{2}\right) =\begin{pmatrix}
0 & 1 & 1 \\
1 & 0 & 0 \\
1 & 0 & 0\end{pmatrix}\end{equation*}です。首座小行列式の値は、\begin{eqnarray*}
\det \left( A_{1}\left( y_{1},y_{2}\right) \right) &=&\det
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
1 & 0\end{pmatrix}=-1<0 \\
\det \left( A_{2}\left( y_{1},y_{2}\right) \right) &=&\det
\begin{pmatrix}
0 & 1 & 1 \\
1 & 0 & 0 \\
1 & 0 & 0\end{pmatrix}=0
\end{eqnarray*}となるため、\(f\)は準凸関数であるための必要条件を満たしています。なお、先に示したように\(F\)は準凸関数です。
生産集合の凸性と変換関数の準凸性の間には以下の関係が成立します。
狭義準凸な変換関数
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)に加えて変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられているとき、\(F\)が狭義準凸関数(strictly quasi-convex function)であることとは、\begin{equation*}\forall y\in \mathbb{R} ^{N},\ \forall y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{N}\backslash \left\{ y\right\} ,\ \forall \alpha \in \left( 0,1\right)
:F\left( \alpha y+\left( 1-\alpha \right) y^{\prime }\right) <\max \left\{
F\left( y\right) ,F\left( y^{\prime }\right) \right\}
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、異なる2つの生産ベクトル\(y,y^{\prime }\)を任意に選んだとき、それらを任意の割合\(\alpha \)で混ぜて得られる生産ベクトルに対して\(F\)が定める値がいずれも、\(F\left(y\right) \)と\(F\left( y^{\prime }\right) \)の大きい方の値よりも小さい水準に留まるということです。
生産集合の狭義凸性と変換関数の狭義準凸性の間には以下の関係が成立します。
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