生産集合の連続性
生産者の技術が生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)として表現されているものとします。\(Y\)はユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N}\)の部分集合であるため、そこには位相が設定されています。そこで、生産集合\(Y\)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合である場合、\(Y\)は連続性(continuity)を満たすと言います。
閉集合は様々な形で定義できますが、ここでは点列を用いた定義を採用した上で、生産集合\(Y\)が連続性を満たすことの意味を確認します。生産集合\(Y\)の点を項とする収束点列\(\left\{ y_{v}\right\} \)を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :y_{v}\in Y \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}\in \mathbb{R} ^{N}
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\left\{ y_{v}\right\} \)を任意に選ぶということです。一般にこのような収束点列の極限は\(Y\)の点であるとは限りませんが、仮にこのような収束点列の極限が\(Y\)の点であることが保証されるならば、すなわち、\begin{equation*}\left( c\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}\in Y
\end{equation*}が成り立つならば、\(Y\)は\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合であると言います。
連続性の意味を深く理解するために、生産集合\(Y\)が連続性を満たさない場合には、すなわち\(Y\)が閉集合でない場合にはどのようなことが起こり得るか考えます。このとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :y_{v}\in Y \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}\in \mathbb{R} ^{N}
\end{eqnarray*}をともに満たす一方で、\begin{equation*}
\left( c\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}\in Y
\end{equation*}を満たさない点列\(\left\{y_{v}\right\} \)が存在するはずです。点列\(\left\{ y_{v}\right\} \)が\(\left( a\right) \)を満たすということは、\(\left\{ y_{v}\right\} \)のすべての項が技術的に選択可能な生産ベクトルであることを意味します。\(\left( b\right) \)より点列\(\left\{ y_{v}\right\} \)は収束するため、その極限\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\)に相当する生産ベクトルのいくらでも近い所に\(\{y_{v}\}\)の点が無数に存在します。つまり、生産ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\)のいくらでも近い所に技術的に選択可能な生産ベクトルが無数に存在するということです。一方、条件\(\left( c\right) \)が成り立たないことは、生産ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\)は技術的に選択可能ではないことを意味します。結論をまとめると、生産集合が閉集合ではない場合には、技術的に選択可能ではない生産ベクトルのいくらでも近い所に技術的に選択可能な生産ベクトルが無数に存在するという事態が起こり得ます。生産ベクトルが閉集合であるという仮定のもとでは、そのような事態が起こる可能性が排除されます。
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}\leq -y_{1}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします(下図)。
この生産集合\(Y\)が連続性を満たすこと、すなわち\(\mathbb{R} ^{2}\)上の閉集合であることを点列を用いて証明します。\(Y\)の点を項とする収束点列を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :\left( y_{v}^{\left( 1\right) },y_{v}^{\left( 2\right) }\right) \in Y \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\left( y_{v}^{\left( 1\right)
},y_{v}^{\left( 2\right) }\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\left( y_{v}^{\left( 1\right) },y_{v}^{\left( 2\right) }\right) \)を任意に選ぶということです。\(Y\)の定義より\(\left( a\right) \)は、\begin{equation*}\forall v\in \mathbb{N} :y_{v}^{\left( 2\right) }\leq -y_{v}^{\left( 1\right) }
\end{equation*}と必要十分であるため、これと\(\left( b\right) \)および収束する数列の性質より、\begin{equation*}\lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}^{\left( 2\right) }\leq \lim_{v\rightarrow
\infty }\left( -y_{v}^{\left( 1\right) }\right)
\end{equation*}が成り立ちます。これと\(\left( b\right) \)および\(Y\)の定義より、\begin{equation*}\left( \lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}^{\left( 1\right)
},\lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}^{\left( 2\right) }\right) \in Y
\end{equation*}が成り立つため、\(Y\)が\(\mathbb{R} ^{2}\)上の閉集合であること、したがって連続性を満たすことが明らかになりました。
変換フロンティアを用いた連続性の定義
閉集合は境界を用いて表現することもできます。生産ベクトル\(a\in Y\)を任意に選んだとき、点\(a\)を中心とする近傍\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)とは点\(a\)からの距離が\(\varepsilon >0\)よりも近い場所にある\(Y\)の点からなる集合であり、具体的には、\begin{equation*}N_{\varepsilon }\left( a\right) =\left\{ y\in Y\ |\ d\left( y,a\right)
<\varepsilon \right\}
\end{equation*}と定義されます。ただし、\(d:Y\times Y\rightarrow \mathbb{R} \)はユークリッド距離関数であり、点\(y,a\in Y\)に対して、\begin{equation*}d\left( y,a\right) =\sqrt{\sum_{i=1}^{N}\left( y_{i}-a_{i}\right) ^{2}}
\end{equation*}と定義されます。さて、生産ベクトル\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)が生産集合\(Y\)の境界点であることとは、\(y\)を中心とする任意の近傍が\(Y\)とその補集合\(Y^{c}\)の双方と交わること、すなわち、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0:\left[ N_{\varepsilon }\left( y\right) \cap
Y\not=\phi \wedge N_{\varepsilon }\left( y\right) \cap Y^{c}\not=\phi \right]
\end{equation*}が成り立つことを意味します。さらに、\(Y\)のすべての境界点からなる集合を\(Y\)の境界と呼び、これを、\begin{equation*}Y^{f}
\end{equation*}で表記します。特に、生産集合\(Y\)の境界\(Y^{f}\)を変換フロンティアと呼びます。以上を踏まえたとき、生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)の境界\(Y^{f}\)が\(Y\)の部分集合であることは、すなわち、\begin{equation*}Y^{f}\subset Y
\end{equation*}が成り立つことは、\(Y\)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合であるための必要十分条件です。
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}\leq -y_{1}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします(下図)。
先に点列を用いて示したように、この生産集合\(Y\)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上の閉集合です。\(Y\)の境界、すなわち変換フロンティアは、\begin{equation*}Y^{f}=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}=-y_{1}\right\}
\end{equation*}であるため\(Y^{f}\subset Y\)が明らかに成立します。したがって\(Y\)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上の閉集合ですが、これは先の結果と整合的です。
連続性の仮定と効率生産集合の関係
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)とその境界である生産フロンティア\(Y^{f}\)および狭義効率生産集合\(Y^{\ast }\)の間には、\begin{equation*}Y^{\ast }\subset Y\cap Y^{f}
\end{equation*}という関係が成り立ちます。したがって、効率的な生産ベクトルは生産集合の境界点であることが保証されます。ただ、\(Y\)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合でない場合、\(Y\)の境界点は\(Y\)に含まれるとは限りません。仮に\(Y\)のすべての境界点が\(Y\)の要素でない場合には、\begin{equation*}Y\cap Y^{f}=\phi
\end{equation*}となりますが、すると上の関係より、\begin{equation*}
Y^{\ast }=\phi
\end{equation*}となり、効率的な生産ベクトルが存在しないことになってしまいます。一方、生産集合\(Y\)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合である場合には、閉集合の定義より、\begin{equation*}Y^{f}\subset Y
\end{equation*}が成り立つため以下を得ます。
\end{equation*}が成り立つ。ただし、\(Y^{\ast }\)は狭義効率生産集合であり、\(Y^{f}\)は変換フロンティアである。
効率的な生産ベクトルは生産集合の境界点である一方、その逆は成立するとは限りません。つまり、生産集合の境界点、すなわち変換フロンティア上の点は効率的であるとは限らないということです。以下の例より明らかです。
変換フロンティア上の生産ベクトル\(y,y^{\prime }\in Y^{f}\)を上図のように選びます。\(y\)は\(y^{\prime }\)を広義支配するため\(y^{\prime }\)は狭義効率的ではなく、したがって\(y^{\prime }\not\in Y^{\ast }\)です。
変換関数の連続性
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)が与えられたとき、変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)は任意の\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ y\in Y\Leftrightarrow F\left( y\right) \leq 0 \\
&&\left( b\right) \ y\in Y^{f}\Leftrightarrow F\left( y\right) =0
\end{eqnarray*}を満たすものとして定義されます。生産集合\(Y\)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合であることと、\(Y\)の境界\(Y^{f}\)が\(Y\)の部分集合であることは必要十分です。逆に、\(Y\)が閉集合でない場合、\(Y\)の要素ではない\(Y\)の境界点\(y\in Y^{f}\)が存在することになります。\(y\not\in Y\)および\(\left( a\right) \)より\(F\left( y\right) >0\)である一方、\(y\in Y^{f}\)および\(\left( b\right) \)より\(F\left( y\right) =0\)であるため矛盾です。したがって変換関数\(F\)の定義が意味をなさなくなってしまいます。一方、生産集合\(Y\)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合である場合には\(Y^{f}\subset Y\)となることが保証されるため、変換関数\(F\)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の任意の点において定義されます。
変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、逆に生産集合\(Y\)は、\begin{equation*}Y=\left\{ y\in \mathbb{R} ^{N}\ |\ F\left( y\right) \leq 0\right\}
\end{equation*}と定義されますが、変換関数\(F\)が連続関数である場合、生産集合\(Y\)が閉集合であること、すなわち連続性を満たすことが保証されます。
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)および変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、\(F\)が連続関数であるならば\(Y\)は連続性を満たす。
\end{equation*}を定めるものとして定義されています。\(F\)は連続関数であるため、上の命題より生産集合\(Y\)は連続性を満たします。
上の命題の逆は成立するとは限りません。つまり、生産集合\(Y\)が連続性を満たす場合、変換関数\(F\)は\(\mathbb{R} ^{N}\)上の任意の点において連続であるとは限りません。以下の例より明らかです。
\begin{array}{cc}
y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}} & \left( if\ \left(
y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \right) \\
1 & \left( if\ \left( y_{1},y_{2}\right) \not\in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \right)\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとして定義されています。生産集合\(Y\)は、\begin{equation*}Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \ |\ y_{2}\leq \left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}であり、これは\(\mathbb{R} ^{2}\)上の閉集合であるため\(Y\)は連続性を満たします。一方、変換関数\(F\)は点\(\left( 0,0\right) \)において連続ではありません。
演習問題
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \ |\ y_{2}\leq \left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}と定義されています。\(Y\)が連続性を満たすことを点列を用いて証明してください。
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0\wedge y_{3}\leq \left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}と定義されています。\(Y\)が連続性を満たすことを証明してください。
プレミアム会員専用コンテンツです
【ログイン】【会員登録】