関数の点における微分係数は極限を用いて定義されますが、その点が区間の境界点である場合には通常の意味での極限が定義不可能であるため、片側極限を用いて微分可能性を定義します。このようにして定義された微分係数を片側微分係数と呼びます。

片側微分係数

これまでは関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R}\)の内点\(a\in X^{i}\)における微分可能性について考えてきました。一方、有界閉区間のように境界を含む集合上に定義された関数\(f:\mathbb{R} \supset \lbrack s,t]\rightarrow \mathbb{R}\)が与えられたとき、区間の端点\(s,t\)はいずれも定義域の内点ではなく境界点となりますが、このような点における微分可能性についてどのように考えればよいでしょうか。

区間について復習する 内点について復習する 境界点について復習する

区間上に定義された関数\(f:\mathbb{R} \supset \lbrack s,t]\rightarrow \mathbb{R}\)の境界点\(s\)における通常の意味での微分可能性を検討する際には、そもそも\(h\not=0\)を満たす十分小さい任意の実数\(h\)について平均変化率\begin{equation*}
\frac{f(s+h)-f(s)}{h}
\end{equation*}が定義されていなければなりません。しかし、\(s\)は定義域の端点ですから\(h<0\)を満たす任意の\(h\)について\(f\left( s+h\right) \)は定義されておらず、よって上の平均変化率も存在しません。つまり、境界点\(s\)において通常の意味での微分可能性を検討することはできないということです。一方、\(h>0\)を満たす十分小さい任意の\(h\)に関して上の平均変化率は定義されているため、\(h\)が正の値をとりながら\(0\)に限りなく近づく場合の右側極限\begin{equation*}
\lim\limits_{h\rightarrow 0+}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}
\end{equation*}が存在するか否かを検討することはできます。そこで、このような右側極限として\(f\)の\(s\)における微分係数を定義します。同様に、区間\([s,t]\)のもう一方の端点である\(t\)における微分係数としては、\(h\)が負の値をとりながら\(0\)に限りなく近づく場合の左側極限\begin{equation*}
\lim\limits_{h\rightarrow 0-}\frac{f(t+h)-f(t)}{h}
\end{equation*}を採用します。

関数の片側極限について復習する

以上の議論では、区間の端点における微分可能性を定義するためにはどうすればよいかという問題意識を背景に、関数の片側極限を用いて微分可能性を考えました。ただし、このような考え方は区間の端点に限らず、関数の定義域の内点に関しても適用可能です。つまり、関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R}\)と内点\(a\in X^{i}\)が与えられたとき、\(f\)の\(a\)における微分可能性を表す概念としては、通常の極限から定義される微分係数\(\lim\limits_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}\)とは別に、右側極限から定義される微分係数\(\lim\limits_{h\rightarrow 0+}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}\)や、左側極限から定義される微分係数\(\lim\limits_{h\rightarrow 0-}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}\)などが存在するということです。これらの関係については後ほど詳しく解説します。

以上の議論をまとめましょう。関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R}\)の変数\(x\)が点\(a\in X\)から\(h>0\)だけ変化したときの\(f\left( x\right) \)の平均変化率\(\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}\)が与えられたとき、\(a\)を固定した上で、これを\(h\)に関する関数とみなした上で\(h\rightarrow 0+\)のときの右側極限\begin{equation*}
\lim_{h\rightarrow 0+}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}をとります。この右側極限は存在するとは限りませんが、仮に存在する場合にはこれを\(f\)の\(a\)における右側微分係数(right-hand differential coefficient at \(a\))と呼び、\begin{equation*}
f^{\prime }(a+0),\quad \frac{df(a+0)}{dx},\quad \frac{d}{dx}f(a+0),\quad \left. \frac{df\left( x+0\right) }{dx}\right\vert _{x=a}
\end{equation*}などで表します。また、右側微分係数\(f^{\prime }\left( a+0\right) \)が存在する場合に\(f\)は\(a\)において右側微分可能(right-hand differentiable at \(a\))であると言います。

同様に、関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R}\)の変数\(x\)が点\(a\in X\)から\(h<0\)だけ変化したときの\(f\left( x\right) \)の平均変化率\(\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}\)が与えられたとき、\(a\)を固定した上で、これを\(h\)に関する関数とみなした上で\(h\rightarrow 0-\)のときの左側極限\begin{equation*}
\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}をとります。この左側極限は存在するとは限りませんが、仮に存在する場合にはこれを\(f\)の\(a\)における左側微分係数(left-hand
differential coefficient at \(a\))と呼び、\begin{equation*}
f^{\prime }(a-0),\quad \frac{df(a-0)}{dx},\quad \frac{d}{dx}f(a-0),\quad \left. \frac{df\left( x-0\right) }{dx}\right\vert _{x=a}
\end{equation*}などで表します。また、左側微分係数\(f^{\prime }\left( a-0\right) \)が存在する場合に\(f\)は\(a\)において左側微分可能(left-hand differentiable at \(a\))であると言います。

右側微分係数\(f^{\prime }(a+0)\)と左側微分係数\(f^{\prime }\left( a-0\right) \)を総称して、\(f\)のにおける片側微分係数\(a\)(one-sided differential coefficient at \(a\))と呼びます。

例(片側微分係数)
区間上に定義された関数\(f:\mathbb{R} \supset \left[ 0,1\right] \rightarrow \mathbb{R}\)が、\begin{equation*}
f\left( x\right) =x^{2}
\end{equation*}で与えられているものとします。\(f\)は\(0\)より小さい値において定義されていないため、\(0\)における通常の微分や左側微分を考えることはできません。一方、\(0\)における右側微分については、\begin{equation*}
\lim_{h\rightarrow 0+}\frac{f\left( 0+h\right) -f\left( 0\right) }{h}=\lim_{h\rightarrow 0+}\frac{\left( 0+h\right) ^{2}-0^{2}}{h}\lim_{h\rightarrow 0+}h=0
\end{equation*}となるため、\(f\)は\(0\)において右側微分可能であり、\(f^{\prime }\left( 0+0\right) =0\)となります。また、\(f\)は\(1\)より大きい値において定義されていないため、\(1\)における通常の微分や右側微分を考えることはできません。一方\(1\)における左側微分については、\begin{equation*}
\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{f\left( 1+h\right) -f\left( 1\right) }{h}=\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{\left( 1+h\right) ^{2}-1^{2}}{h}\lim_{h\rightarrow 0-}\left( 2+h\right) =2
\end{equation*}となるため、\(f\)は\(1\)において左側微分可能であり、\(f^{\prime }\left( 1-0\right) =2\)となります。
例(片側微分係数)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\)が、\begin{equation*}
f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
x & \left( if\ x\geq 0\right) \\
-x & \left( if\ x<0\right) \end{array}\right. \end{equation*}と定義されているものとします。点\(0\in \mathbb{R}\)における平均変化率は、\(h>0\)の場合には、\begin{equation*}
\frac{f\left( 0+h\right) -f\left( 0\right) }{h}=\frac{\left( 0+h\right) -0}{h}=1
\end{equation*}となるため、\(f\)の\(0\)における右側極限は、\begin{equation*}
f^{\prime }\left( 0+0\right) =\lim_{h\rightarrow 0+}\frac{f\left( 0+h\right) -f\left( 0\right) }{h}=\lim_{h\rightarrow 0+}1=1
\end{equation*}となります。一方、\(h<0\)の場合の平均変化率は、\begin{equation*}
\frac{f\left( 0+h\right) -f\left( 0\right) }{h}=\frac{-\left( 0+h\right) -\left( -0\right) }{h}=-1
\end{equation*}となるため、\(f\)の\(0\)における左側極限は、\begin{equation*}
f^{\prime }\left( 0-0\right) =\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{f\left( 0+h\right) -f\left( 0\right) }{h}=\lim_{h\rightarrow 0-}\left( -1\right) =-1
\end{equation*}となります。

 

片側微分係数の一意性

一般に、関数が片側から収束する場合には片側極限が一意的に定まります。片側微分係数は関数の片側極限として定義されるため、片側微分係数が存在する場合には一意的です。

命題(片側微分係数の一意性)
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R}\)が点\(a\in X\)において右側微分可能であるとき、右側微分係数\(f^{\prime }\left( a+0\right) \)は一意的に定まる。また、\(a\)において左側微分可能であるとき、左側微分係数\(f^{\prime }\left( a-0\right) \)は一意的に定まる。
証明を見る(プレミアム会員限定)

 

片側微分と微分の関係

関数は点において片側微分可能であるとは限りません。また、片側微分可能な場合でも、左右の片側微分係数は一致するとは限りません。例えば、以下の図で表されるグラフを持つ関数\(f\)の点\(a\)における左右の片側微分係数は図中の点\(A\)における2本のグレーの接線の傾きの大きさにそれぞれ相当しますが、両者が異なることは一目瞭然です。

図:片側微分と微分

また、関数\(f\)の点\(a\)における微分係数は図中の点\(A\)における接線の傾きに相当しますが、図から明らかなようにそのような接線は一意的に定まらないため、この関数\(f\)は点\(a\)において微分可能ではありません。つまり、関数が点において片側微分可能な場合に左右の片側微分係数は一致するとは限りませんし、その点において微分可能であるとも限りません。

一方、関数が点において片側微分可能であり、なおかつ左右の片側微分係数が一致することは、関数がその点において微分可能であるための必要十分条件です。

命題(片側微分可能性と微分可能性)
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R}\)と内点\(a\in X^{i}\)に対して、ある実数\(c\in \mathbb{R}\)が存在して、\begin{equation*}
f^{\prime }\left( a+0\right) =f^{\prime }\left( a-0\right) =c
\end{equation*}が成り立つことは、\(f^{\prime }\left( a\right) =c\)であるための必要十分条件である。
証明を見る(プレミアム会員限定)

次回からは導関数と呼ばれる概念について学びます。
次へ進む 質問・コメントを投稿する 演習問題(プレミアム会員限定)

Share on facebook
Facebook
Share on twitter
Twitter
Share on email
Email

ワイズをさらに活用するための会員サービス

ユーザー名とメールアドレスを入力して一般会員に無料登録すれば、質問やコメントを投稿できるようになります。さらに、有料(500円/月)のプレミアム会員へアップグレードすることにより、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題、解答など)にアクセスできます。
会員サービス

ディスカッションに参加しますか?

質問やコメントを投稿するにはログインが必要です。
ログイン

アカウント
ログイン