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市場均衡理論

純粋交換経済のモデル

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純粋交換経済モデルの枠組み

複数の消費者と複数の商品だけが存在する単純化された経済を想定します。消費者の人数と商品の種類の数はいずれも有限です。経済全体に存在する商品の総量が初期条件として与えられているとともに、商品はいずれも何らかの消費者によって保有されているものとします。この経済には生産者がいないため、商品の総量は増加しません。それぞれの消費者は自身が保有する商品をそのまま消費することもできますが、望むのであれば、他の消費者たちと商品を交換した上で、得た商品を消費することもできます。以上の経済モデルを純粋交換経済(pure exchange economy)と呼びます。

純粋交換経済において個々の消費者は自身の選好にもとづいて商品を交換します。個々の消費者の行動原理は自身が得る効用の最大化であるため、その結果として経済全体で実現する資源配分は、社会的に望ましいものになる保証はありません。ただ、純粋交換経済に市場価格メカニズムを導入した場合には、個々の消費者が効用最大化原理に基づいて行動した結果として、社会的に望ましい資源配分が実現することになります。以上が純粋交換経済モデルの話の枠組みです。

以降では、議論の出発点として、純粋交換経済およびそこでの資源配分をモデル化します。

 

消費者の選好

純粋交換経済では、有限人の消費者と有限種類の商品が存在する状況を想定します。

経済には有限\(I\in \mathbb{N} \)人の消費者が存在するものとし、すべての消費者からなる集合を、\begin{equation*}\mathcal{I}=\left\{ 1,\cdots ,I\right\}
\end{equation*}で表記します。その上で、\(i\)番目の消費者を、\begin{equation*}i\in \mathcal{I}
\end{equation*}で表記し、これを消費者\(i\)と呼ぶこととします。

経済には有限\(N\in \mathbb{N} \)種類の商品が存在するものとし、すべての商品からなる集合を、\begin{equation*}\mathcal{N}=\left\{ 1,\cdots ,N\right\}
\end{equation*}で表記します。その上で、\(n\)番目の商品を、\begin{equation*}n\in \mathcal{N}
\end{equation*}で表記し、これを商品\(n\)と呼ぶこととします。

\(N\)種類の商品はいずれも非負の実数を値としてとり得るものとします。その上で、\(N\)種類の商品の消費量の組み合わせを表すベクトルを、\begin{equation*}\boldsymbol{x}=\left( x^{\left( 1\right) },\cdots ,x^{\left( N\right)
}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{N}
\end{equation*}で表記し、これを消費ベクトル(consumption vecor)と呼びます。消費ベクトル\(\boldsymbol{x}\)は\(N\)次元ベクトルであり、その第\(n\)成分\(x^{\left( n\right) }\)は商品\(n\)の消費量を表す非負の実数です。

\(N\)種類の商品の消費量の組み合わせは無数に存在するため、消費ベクトルは無数に存在します。すべての消費ベクトルからなる集合は、\begin{equation*}\mathbb{R} _{+}^{N}=\left\{ \boldsymbol{x}\in \mathbb{R} ^{N}\ |\ \forall n\in \mathcal{N}:x^{\left( n\right) }\geq 0\right\} \end{equation*}ですが、これを消費集合(consumption set)と呼びます。

それぞれの消費者\(i\in \mathcal{I}\)は消費ベクトルどうしを比較する選好関係を持っており、それは消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の二項関係\begin{equation*}\succsim _{i}\subset \mathbb{R} _{+}^{N}\times \mathbb{R} _{+}^{N}
\end{equation*}として表現されるものとします。具体的には、2つの消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}\boldsymbol{x}\succsim _{i}\boldsymbol{y}\Leftrightarrow \text{消費者}i\text{は}\boldsymbol{x}\text{を}\boldsymbol{y}\text{以上に好む}
\end{equation*}を満たすものとして\(\succsim _{i}\)を定義します。つまり、比較対象として2つの消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\)を提示されたとき、消費者\(i\)が\(\boldsymbol{x}\)を\(\boldsymbol{y}\)以上に好むとき、そしてその場合にのみ、\(\boldsymbol{x}\succsim _{i}\boldsymbol{y}\)が成り立つものとして\(\succsim _{i}\)を定義するということです。

消費者\(i\)の選好関係\(\succsim_{i}\)が与えられたとき、任意の消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して以下の関係\begin{equation*}\boldsymbol{x}\succ _{i}\boldsymbol{y}\Leftrightarrow \boldsymbol{x}\succsim
_{i}\boldsymbol{y}\wedge \lnot \left( \boldsymbol{y}\succsim _{i}\boldsymbol{x}\right)
\end{equation*}を満たすものとして定義される\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の二項関係\(\succ _{i}\)を消費者\(i\)の狭義選好関係と呼びます。つまり、比較対象として2つの消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\)を提示されたとき、消費者\(i\)が\(\boldsymbol{x}\)を\(\boldsymbol{y}\)以上に好む一方で\(\boldsymbol{y}\)を\(\boldsymbol{x}\)以上に好まない場合、すなわち消費者\(i\)が\(\boldsymbol{x}\)を\(\boldsymbol{y}\)よりも好む場合、そしてその場合にのみ\(\boldsymbol{x}\succ _{i}\boldsymbol{y}\)が成り立つものとして\(\succ _{i}\)を定義するということです。

消費者\(i\)の選好関係\(\succsim_{i}\)が与えられたとき、任意の消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して以下の関係\begin{equation*}\boldsymbol{x}\sim _{i}\boldsymbol{y}\Leftrightarrow \boldsymbol{x}\succsim
_{i}\boldsymbol{y}\wedge \boldsymbol{y}\succsim _{i}\boldsymbol{x}
\end{equation*}を満たすものとして定義される\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の二項関係\(\sim _{i}\)を消費者\(i\)の無差別関係と呼びます。つまり、比較対象として2つの消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\)を提示されたとき、消費者\(i\)が\(\boldsymbol{x}\)を\(\boldsymbol{y}\)以上に好むと同時に\(\boldsymbol{y}\)を\(\boldsymbol{x}\)以上に好む場合、すなわち消費者\(i\)にとって\(\boldsymbol{x}\)と\(\boldsymbol{y}\)が同じ程度望ましい場合、そしてその場合にのみ\(\boldsymbol{x\sim _{i}y}\)が成り立つものとして\(\sim _{i}\)を定義するということです。

消費者\(i\)の選好関係\(\succsim_{i}\)が与えられたとき、任意の消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して以下の関係\begin{equation*}u_{i}\left( \boldsymbol{x}\right) \geq u_{i}\left( \boldsymbol{y}\right)
\Leftrightarrow \boldsymbol{x}\succsim _{i}\boldsymbol{y}
\end{equation*}を満たす関数\begin{equation*}
u_{i}:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が存在する場合には、これを\(\succsim _{i}\)を表現する効用関数と呼びます。効用関数\(u_{i}\)が消費ベクトル\(\boldsymbol{x}\)に対して定める値\(u_{i}\left( \boldsymbol{x}\right) \)を\(\boldsymbol{x}\)の効用と呼びます。選好関係\(\succsim _{i}\)を表現する効用関数\(u_{i}\)が存在する場合、消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\)について\(\boldsymbol{x}\)が\(\boldsymbol{y}\)以上に望ましいことと、\(\boldsymbol{x}\)の効用が\(\boldsymbol{y}\)の効用以上であることが必要十分になります。効用関数を用いれば、消費ベクトルの間の相対的な望ましさを、消費ベクトルがもたらす効用の大小関係として表現できるということです。

選好関係\(\succsim _{i}\)を表す効用関数\(u_{i}\)が存在する場合、任意の消費ベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して以下の関係\begin{eqnarray*}u_{i}\left( \boldsymbol{x}\right) &>&u_{i}\left( \boldsymbol{y}\right)
\Leftrightarrow \boldsymbol{x}\succ _{i}\boldsymbol{y} \\
u_{i}\left( \boldsymbol{x}\right) &=&u_{i}\left( \boldsymbol{y}\right)
\Leftrightarrow \boldsymbol{x}\sim _{i}\boldsymbol{y}
\end{eqnarray*}もまた成り立ちます。

 

初期保有量

純粋交換経済では、経済全体に存在する商品の総量が初期条件として与えられているとともに、商品はいずれも何らかの消費者によって保有されています。

初期時点において消費者\(i\in \mathcal{I}\)が保有する商品の数量を表すベクトルを、\begin{equation*}\boldsymbol{e}_{i}=\left( e_{i}^{\left( 1\right) },\cdots ,e_{i}^{\left(
N\right) }\right) \in \mathbb{R} _{+}^{N}
\end{equation*}で表記し、これを消費者\(i\)の初期保有量(endowment)と呼びます。初期保有\(\boldsymbol{e}_{i}\)は\(N\)次元ベクトルであり、その第\(n\)成分\(e_{i}^{\left( n\right) }\)は消費者\(i\)が初期時点において保有する商品\(n\)の数量を表す非負の実数です。

初期時点においてすべての商品は何らかの消費者に保有されているため、すべての消費者の初期保有のベクトル和をとれば、初期時点において経済に存在する商品の総量\begin{eqnarray*}
\sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{e}_{i} &=&\sum_{i\in \mathcal{I}}\left(
e_{i}^{\left( 1\right) },\cdots ,e_{i}^{\left( N\right) }\right) \\
&=&\left( \sum_{i\in \mathcal{I}}e_{i}^{\left( 1\right) },\cdots ,\sum_{i\in
\mathcal{I}}e_{i}^{\left( N\right) }\right) \\
&\in &\mathbb{R} _{+}^{N}
\end{eqnarray*}を特定できます。これを経済に存在する初期保有量(initial endowments)と呼びます。このベクトルの第\(n\)成分\(\sum_{i\in \mathcal{I}}e_{i}^{\left( n\right) }\)は初期時点において経済に存在する商品\(n\)の総量を表す非負の実数です。

 

純粋交換経済

純粋交換経済に存在する消費者は消費者集合\begin{equation*}
\mathcal{I}=\left\{ 1,\cdots ,I\right\}
\end{equation*}として表現され、経済に存在する商品の種類は商品集合\begin{equation*}
\mathcal{N}=\left\{ 1,\cdots ,N\right\}
\end{equation*}として表現されます。それぞれの消費者\(i\in \mathcal{I}\)の選好は消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\begin{equation*}\succsim _{i}\subset \mathbb{R} _{+}^{N}\times \mathbb{R} _{+}^{N}
\end{equation*}として表現され、それぞれの消費者\(i\)が初期時点において保有する商品は初期保有量\begin{equation*}\boldsymbol{e}_{i}=\left( e_{i}^{\left( 1\right) },\cdots ,e_{i}^{\left(
N\right) }\right) \in \mathbb{R} _{+}^{N}
\end{equation*}として表現されます。以上の要素からなるモデルを、\begin{equation*}
\mathcal{E}=\left( \mathcal{I},\mathcal{N},\left\{ \succsim _{i}\right\}
_{i\in \mathcal{I}},\left\{ \boldsymbol{e}_{i}\right\} _{i\in \mathcal{I}}\right)
\end{equation*}で表記し、これを純粋交換経済(pure exchange economy)と呼びます。

例(純粋交換経済)
2人の消費者と2種類の商品が存在する純粋交換経済\begin{equation*}
\mathcal{E}=\left( \mathcal{I},\mathcal{N},\left\{ \succsim _{i}\right\}
_{i\in \mathcal{I}},\left\{ \boldsymbol{e}_{i}\right\} _{i\in \mathcal{I}}\right)
\end{equation*}について考えます。つまり、消費者集合は\(\mathcal{I}=\left\{ 1,2\right\} \)であり、商品集合は\(\mathcal{N}=\left\{ 1,2\right\} \)であり、消費者\(i\in \mathcal{I}\)の選好関係は\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)上の二項関係\(\succsim _{i}\)として表現されます。それぞれの消費者の初期保有量が、\begin{eqnarray*}\boldsymbol{e}_{1} &=&\left( e_{1}^{\left( 1\right) },e_{1}^{\left( 2\right)
}\right) =\left( 2,9\right) \\
\boldsymbol{e}_{2} &=&\left( e_{2}^{\left( 1\right) },e_{2}^{\left( 2\right)
}\right) =\left( 7,1\right)
\end{eqnarray*}である場合、経済に存在する初期保有量は、\begin{eqnarray*}
\boldsymbol{e}_{1}+\boldsymbol{e}_{2} &=&\left( 2,9\right) +\left(
7,1\right) \\
&=&\left( 9,10\right)
\end{eqnarray*}となります。つまり、経済には\(9\)単位の商品\(1\)と\(10\)単位の商品\(2\)が存在します。

 

純粋交換経済において実行可能な配分

純粋交換経済\(\mathcal{E}\)において消費者\(i\in \mathcal{I}\)が直面する消費ベクトルを、\begin{equation*}\boldsymbol{x}_{i}=\left( x_{i}^{\left( 1\right) },\cdots ,x_{i}^{\left(
N\right) }\right) \in \mathbb{R} _{+}^{N}
\end{equation*}で表記します。ただし、ベクトル\(\boldsymbol{x}_{i}\)の第\(n\)成分\(x_{i}^{\left( n\right) }\)は消費者\(i\)による商品\(n\)の消費量を表す非負の実数です。その上で、すべての消費者が直面する消費ベクトルからなる組を、\begin{eqnarray*}\boldsymbol{x}_{\mathcal{I}} &=&\left( \boldsymbol{x}_{i}\right) _{i\in
\mathcal{I}} \\
&=&\left( \boldsymbol{x}_{1},\cdots ,\boldsymbol{x}_{I}\right) \\
&=&\left( x_{1}^{\left( 1\right) },\cdots ,x_{1}^{\left( N\right) },\cdots
,x_{I}^{\left( 1\right) },\cdots ,x_{I}^{\left( N\right) }\right) \\
&\in &\mathbb{R} _{+}^{N\times I}
\end{eqnarray*}で表記し、これを配分(allocation)と呼びます。

配分\(\boldsymbol{x}_{\mathcal{I}}\in \mathbb{R} _{+}^{N\times I}\)のもとですべての消費者によって消費される商品の総量は、\begin{equation*}\sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{x}_{i}=\left( \sum_{i\in \mathcal{I}}x_{i}^{\left( 1\right) },\cdots ,\sum_{i\in \mathcal{I}}x_{i}^{\left(
N\right) }\right)
\end{equation*}である一方で、経済全体に存在する商品の総量は、\begin{equation*}
\sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{e}_{i}=\left( \sum_{i\in \mathcal{I}}e_{i}^{\left( 1\right) },\cdots ,\sum_{i\in \mathcal{I}}e_{i}^{\left(
N\right) }\right)
\end{equation*}であるため、消費者たちが互いに商品を交換することにより配分\(\boldsymbol{x}_{I}\)を実現するためには、そもそも以下の条件\begin{equation*}\forall n\in \mathcal{N}:\sum_{i\in \mathcal{I}}x_{i}^{\left( n\right) }\leq
\sum_{i\in \mathcal{I}}e_{i}^{\left( n\right) }
\end{equation*}が満たされている必要があります。ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N}\)上の標準的順序を利用すると、以上の条件を、\begin{equation*}\sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{x}_{i}\leq \sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{e}_{i}
\end{equation*}と表現することもできます。いずれにせよ、以上の条件が満たされる場合、配分\(\boldsymbol{x}_{\mathcal{I}}\)は実行可能(feasible)であると言います。

特に、先の条件が等号で成立する場合には、すなわち、\begin{equation*}
\forall n\in \mathcal{N}:\sum_{i\in \mathcal{I}}x_{i}^{\left( n\right)
}=\sum_{i\in \mathcal{I}}e_{i}^{\left( n\right) }
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{x}_{i}=\sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{e}_{i}
\end{equation*}が成り立つ場合には、配分\(\boldsymbol{x}_{\mathcal{I}}\)は実行可能であるとともに、経済に存在するすべての商品が余すことなく消費者たちに配分されていることを意味します。つまり、市場全体の総需要(左辺)と総供給(右辺)が一致するということです。そこで、以上の等式が成立する場合、配分\(\boldsymbol{x}_{\mathcal{I}}\)のもとで市場の需給が均衡している(marlet clearing)と言います。

実行可能な配分をすべて集めることにより得られる集合を、\begin{equation*}
\mathcal{A}=\left\{ \boldsymbol{x}_{\mathcal{I}}\in \mathbb{R} _{+}^{N\times I}\ |\ \sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{x}_{i}\leq
\sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{e}_{i}\right\}
\end{equation*}で表記し、これを配分集合(allocation set)と呼びます。特に、市場の需給が均衡するような配分からなる集合は、\begin{equation*}
\mathcal{A}=\left\{ \boldsymbol{x}_{\mathcal{I}}\in \mathbb{R} _{+}^{N\times I}\ |\ \sum_{i\in \mathcal{I}}\boldsymbol{x}_{i}=\sum_{i\in
\mathcal{I}}\boldsymbol{e}_{i}\right\}
\end{equation*}です。

例(純粋交換経済)
2人の消費者と2種類の商品が存在する純粋交換経済\begin{equation*}
\mathcal{E}=\left( \mathcal{I},\mathcal{N},\left\{ \succsim _{i}\right\}
_{i\in \mathcal{I}},\left\{ \boldsymbol{e}_{i}\right\} _{i\in \mathcal{I}}\right)
\end{equation*}について考えます。つまり、消費者集合は\(\mathcal{I}=\left\{ 1,2\right\} \)であり、商品集合は\(\mathcal{N}=\left\{ 1,2\right\} \)であり、消費者\(i\in \mathcal{I}\)の選好関係は\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)上の二項関係\(\succsim _{i}\)として表現されます。消費者の初期保有量が、\begin{eqnarray*}\boldsymbol{e}_{1} &=&\left( e_{1}^{\left( 1\right) },e_{1}^{\left( 2\right)
}\right) =\left( 2,9\right) \\
\boldsymbol{e}_{2} &=&\left( e_{2}^{\left( 1\right) },e_{2}^{\left( 2\right)
}\right) =\left( 7,1\right)
\end{eqnarray*}である場合、経済に存在する初期保有量は、\begin{eqnarray*}
\boldsymbol{e}_{1}+\boldsymbol{e}_{2} &=&\left( 2,9\right) +\left(
7,1\right) \\
&=&\left( 9,10\right)
\end{eqnarray*}となります。配分\(\left( \boldsymbol{x}_{1},\boldsymbol{x}_{2}\right) \)が以下の条件\begin{eqnarray*}\boldsymbol{x}_{1} &=&\left( x_{1}^{\left( 1\right) },x_{1}^{\left( 2\right)
}\right) =\left( 5,5\right) \\
\boldsymbol{x}_{2} &=&\left( x_{2}^{\left( 1\right) },x_{2}^{\left( 2\right)
}\right) =\left( 4,5\right)
\end{eqnarray*}が満たす場合には、\begin{equation*}
\boldsymbol{x}_{1}+\boldsymbol{x}_{2}=\left( 9,10\right)
\end{equation*}となるため、\begin{equation*}
\boldsymbol{x}_{1}+\boldsymbol{x}_{2}=\boldsymbol{e}_{1}+\boldsymbol{e}_{2}
\end{equation*}が成り立ち、したがって配分\(\left( \boldsymbol{x}_{1},\boldsymbol{x}_{2}\right) \)は実行可能であるとともに市場の需給は均衡しています。一方、配分\(\left( \boldsymbol{x}_{1},\boldsymbol{x}_{2}\right) \)が以下の条件\begin{eqnarray*}\boldsymbol{x}_{1} &=&\left( x_{1}^{\left( 1\right) },x_{1}^{\left( 2\right)
}\right) =\left( 6,5\right) \\
\boldsymbol{x}_{2} &=&\left( x_{2}^{\left( 1\right) },x_{2}^{\left( 2\right)
}\right) =\left( 5,5\right)
\end{eqnarray*}が満たす場合には、\begin{equation*}
\boldsymbol{x}_{1}+\boldsymbol{x}_{2}=\left( 11,10\right)
\end{equation*}となるため、\begin{equation*}
\boldsymbol{x}_{1}+\boldsymbol{x}_{2}>\boldsymbol{e}_{1}+\boldsymbol{e}_{2}
\end{equation*}が成り立ち、したがって配分\(\left( \boldsymbol{x}_{1},\boldsymbol{x}_{2}\right) \)は実行可能ではありません。

 

エッジワースボックス(2消費者・2商品の純粋交換経済の視覚化)

2人の消費者と2種類の商品が存在する場合の純粋交換経済と、そのような純粋交換経済における配分については、それらを図を用いて視覚的に表現できます。具体的には以下の通りです。

2人の消費者と2種類の商品が存在する純粋交換経済\begin{equation*}
\mathcal{E}=\left( \mathcal{I},\mathcal{N},\left\{ \succsim _{i}\right\}
_{i\in \mathcal{I}},\left\{ \boldsymbol{e}_{i}\right\} _{i\in \mathcal{I}}\right)
\end{equation*}について考えます。消費者集合は、\begin{equation*}
\mathcal{I}=\left\{ A,B\right\}
\end{equation*}であり、商品集合は、\begin{equation*}
\mathcal{N}=\left\{ X,Y\right\}
\end{equation*}であるものとします。それぞれの消費者の初期保有量が、\begin{eqnarray*}
\boldsymbol{e}_{A} &=&\left( e_{A}^{\left( X\right) },e_{A}^{\left( Y\right)
}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2} \\
\boldsymbol{e}_{B} &=&\left( e_{B}^{\left( X\right) },e_{B}^{\left( Y\right)
}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}
\end{eqnarray*}である場合、経済に存在する初期保有量は、\begin{eqnarray*}
\boldsymbol{e}_{A}+\boldsymbol{e}_{B} &=&\left( e_{A}^{\left( X\right)
},e_{A}^{\left( Y\right) }\right) +\left( e_{B}^{\left( X\right)
},e_{B}^{\left( Y\right) }\right) \\
&=&\left( e_{A}^{\left( X\right) }+e_{B}^{\left( X\right) },e_{A}^{\left(
Y\right) }+e_{B}^{\left( Y\right) }\right) \\
&\in &\mathbb{R} _{+}^{2}
\end{eqnarray*}となります。つまり、経済に存在する商品\(X\)の総量は\(e_{A}^{\left( X\right)}+e_{B}^{\left( X\right) }\)であり、商品\(Y\)の総量は\(e_{A}^{\left( Y\right) }+e_{B}^{\left(Y\right) }\)です。そこで、横軸の長さが\(e_{A}^{\left( X\right)}+e_{B}^{\left( X\right) }\)であり、縦軸の長さが\(e_{A}^{\left( Y\right) }+e_{B}^{\left(Y\right) }\)であるような四角形の領域\begin{equation*}E=\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ 0\leq x\leq e_{A}^{\left( X\right) }+e_{B}^{\left( X\right) }\wedge
0\leq y\leq e_{A}^{\left( Y\right) }+e_{B}^{\left( Y\right) }\right\}
\end{equation*}を描きます(下図)。

図:初期保有量
図:初期保有量

消費者\(A\)が直面し得る消費ベクトルからなる集合は\(E\)ですが、領域\(E\)は消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)の部分集合であるため、消費者\(A\)は自身の選好関係\(\succsim _{A}\)のもとで領域\(E\)上に存在する消費ベクトルどうしを比較できます。そこで、消費者\(A\)の選好関係\(\succsim _{A}\)を領域\(E\)上に存在する無差別関係として表現します(下図)。

図:消費者Aの選好(無差別曲線)
図:消費者Aの選好(無差別曲線)

消費者\(B\)が直面し得る消費ベクトルからなる集合は\(E\)ですが、領域\(E\)は消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)の部分集合であるため、消費者\(B\)は自身の選好関係\(\succsim _{B}\)のもとで領域\(E\)上に存在する消費ベクトルどうしを比較できます。そこで、消費者\(B\)の選好関係\(\succsim _{B}\)を領域\(E\)上に存在する無差別関係として表現します(下図)。

図:消費者Bの選好(無差別関係)
図:消費者Bの選好(無差別関係)

領域\(E\)の右上の頂点を原点とする形に消費者\(B\)の無差別曲線を反転させた上で、消費者\(A\)の無差別曲線が描かれた図の上に重ねて記します(下図)。

図:エッジワース・ボックス
図:エッジワース・ボックス

上図の領域\(E\)上に存在する点\(\left( x,y\right) \)を任意に選んだとき、左下の原点\(O_{A}\)から測った場合の点\(\left( x,y\right) \)の座標と右上の原点\(O_{B}\)から測った場合の点\(\left( x,y\right) \)の座標を特定した上でそれらのベクトル和をとれば、それは\(\boldsymbol{e}_{A}+\boldsymbol{e}_{B}\)と一致します。したがって、領域\(E\)上に存在するそれぞれの点は市場の需給が均衡するような配分を表します。

以上により、2人の消費者と2種類の商品が存在する場合の純粋交換経済を構成するすべての要素を1つの図として表現することに成功しました。この図をエッジワース・ボックス(Edgeworth box)やエッジワース・ボックス・ダイアグラム(Edgeworth box diagram)、もしくはエッジワース=ボ―リー・ボックス・ダイアグラム(Edgeworth Bowley box diagram)などと呼びます。これはイギリスの経済学者フランシス・イシドロ・エッジワース(Francis Ysidro Edgeworth)により考案された図です。

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